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1.ワークショップの目的
「人工物に政治はあるか」という論文が現れてすでに20年以上が経過 するが、その議論はいまだ多くのことを投げかけている。 例えば、今日、科学技術をめぐるコミュニケーションやエンジニアの 倫理の必要性が叫ばれている。だが、もし人工物に内蔵された諸々の政 治的関係――例えば不平等や権威構造――やそうした関係を受け入れかつ統治すべき「市民」のあり方に対する眼差しをまったく欠いてしまう ならば、そうしたコミュニケーションや倫理は空疎で批判性を欠いたも のでしかありえまい。われわれにとって、技術が人間相互の関係を形づ くる一種の立法行為であり、いかなる人工物と共に生きるかは《よき生》 を定義するきわめて倫理的、政治的な問いであるという視点は、魅惑的 でかつ根本的なものでありつつけている。そしてその理論的・実際的な 内実についての立ち入った検討が待たれているのである。 第一の、ウィナー報告では、この20年間のさまざまな批判と議論をふ まえ、人工物の政治性の意義と議論の背景についてお話しいただく。こ れはこの概念に対する理論的検討と位置づけられる。 第二の安部報告および第三の石原報告では、実証的事例研究および工学 倫理に即して、人工物の政治性の概念の射程についての検討を行う。 安部報告では、灌漑やダム事業を例にとり、開発援助やダム撤去の事 例を通じて顕在化するインフラに内蔵される政治性を紹介していただく。 石原報告では、人工物にはらまれるリスクの問題に焦点を当て、市民参 加や市民との《コミュニケーション》のあり方、とりわけモデルとして のインフォームド・コンセントの限界について検討していただく。 以上の議論を通じて、人工物をめぐる政治という概念の意義と射程に ついて奥行きを広げることができれば幸いである。 2.ワークショップの時間割 12:45-13:00 趣旨説明 直江清隆 (東北大学) 13:00-14:00 話題提供1 Langdon Winner (Rensselaer Polytechnic Institute, New York) "Political Artifacts and Their Significance" The controversial idea of "political artifacts" involves the claim that patterns of material culture are strongly compatible with particular varieties of political practice. Thus, for example, a democratic country that seeks to retain its democratic character ought to choose sociotechnical patterns ("technologies") that are different from patterns that reinforce the norms and practices of authoritarian states. Specific claims about"political artifacts" inhabit the space between political theory and the factual description of technical possibilities. Interpretations about what constitutes politically desirable forms of transportation, communications, computing, housing, and so forth are open to dispute. In fact, some thinkers argue that interpretations of this kind are so numerous and so weakly rooted as to exclude any strong judgments. But a closer look at the sociotechnical drift of modern societies reveals numerous, specific choices in which political principles crucial to democracy - equality, freedom, privacy, limited government, etc. - are undermined and overridden by technological choices strongly compatible with fascism. What appear to be conveniences or necessities realized in specific instrumental settings can have lasting consequences for the character of political society as a whole. This suggests a need to cultivate varieties of wisdom and judgment that modern thought has almost completely ignored. 14:00-14:15 レスポンス1 松本三和夫(東京大学) 14:15-14:45 討議 司会 橋本毅彦(東京大学) 休憩 15:00-15:40 話題提供2 安部竜一郎(四国学院大学) 「人工物はいかにして政治となるか:インフラ設備の政治過程」 Ryuichiro Abe, "How do artifacts have politics?" 人工物の設計者は、常に「モーゼスの橋」のように自らの政治的な意図をデザ インに埋め込むわけではない。むしろ技術者の多くは、経済性と公共性の狭間 に苦しみながらも、その時点における最善を求める努力を続けているのかもし れない。しかし、こうした技術者の個人的な熱意に関わらず、人工物はその計 画時から稼動、廃棄に至るまで、より広範な政治的な争いに巻き込まれること が少なくない。このため、本報告では、技術や人工物のデザイン自体ではなく、 インフラ事業が導入された政治的文脈やその事業が引き起こした社会的な葛藤 に注目することによって、人工物とその背景に潜む政治とを結びつけようと試 みる。 紹介する3つの事例は、フィリピン西ネグロス州の小規模灌漑、インドネシア 北スマトラ州の発電用ダム、熊本県の撤去が決まった発電用ダムと事業の性格 やその社会的影響も異なっている。従って、本研究では、人工物と政治の関係 性の「本質」を見極めようとするのではなく、むしろ人工物を取り巻くより広 い政治的文脈の理解に重点が置かれる。 15:40-16:10 話題提供3 石原孝二(北海道大学) 「人工物のリスクと工学倫理」 Kohji Ishihara, "Politics of Artifacts and Engineering Ethics: Informed Consent and Risk Communication " 工学倫理において、公衆の安全を確保するためのリスク管理は最も重要な要素 の一つとしてみなされてきた。しかしリスク管理と密接な関連を持つリスク情 報の取り扱いに関しては十分検討されてきたとは言いがたい。リスク情報に関 わる問題はしばしばインフォームド・コンセントモデルで考えられてきたが、 インフォームド・コンセントはリスク情報の発信者と受信者が対面的な関係に あることを成立要件とする。こうした要件を欠くエンジニアリングのリスク情 報の取り扱いは、インフォームド・コンセントモデルではなく、より政治的な 含意を持ったリスクコミュニケーションモデルにおいて考えられるべきである。 このように工学倫理の中にリスクコミュニケーションの問題を位置づけること により、工学倫理と「人工物の政治学」の接点を探ることが可能になるものと 思われる。 本発表では人工物のリスク情報に関する取り扱いを倫理学的視点から検討する ことにより、工学倫理と人工物の政治学の間を架橋することを試みる。 16:10-16:25 レスポンス2 岩崎豪人(関西学院大学) 16:25-16:40 レスポンス3 Langdon Winner 16:40-17:00 討議 司会 湊隆幸(東京大学) 17:00-18:00 総合討議 司会 橋本毅彦 18:30-2O:00 懇親会 _______________________________________________________________________ 本ワークショップは、人文・社会科学振興プロジェクト研究事業《資源配分メカ ニズムと公正》との共催です。
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